
高血圧の方も実践できる!塩分を控えた熱中症対策

1. 熱中症とは?

熱中症は、高温多湿の環境に長時間さらされることで、徐々に体内の水分や塩分(ナトリウム)のバランスが崩れ、体温調節の仕組みがうまく働かなくなる状態です。その結果、体に熱がこもり、体調不良を引き起こします。
発症は屋外に限りません。室内や夜間でも起こることがあり、特にエアコンを使わない室内や、調理中・就寝中の環境では体温が上がりやすくなります(注1,2)。
【主な症状】
初期には、めまいや立ちくらみといった軽い不調から始まり、進行すると頭痛、吐き気、けいれん、意識障害などの重い症状に至ることもあります。「自分で水が飲めない」「呼びかけに反応しない」といった状態が見られる場合は、ただちに救急車を呼びましょう(注3)。
【体調変化に気づきにくい人】
高齢者、乳幼児、障害のある方などは、体温の調整が難しく、症状に気づきにくいことがあります。日ごろの様子と比べて変化がないか、周囲の人が意識して見守ることが大切です(注3)。
2. 高血圧の方が知っておきたい!塩分と熱中症対策の注意点

熱中症を防ぐには日頃の体調管理とこまめな水分補給が大切です。とくに高血圧の方は、塩分補給に際して過剰摂取にならないよう注意が必要です。暑い季節は汗で水分と塩分が失われますが、必要以上の塩分摂取はリスクとなる場合があります。
2-1.日本人の食塩摂取量と基準値
令和5年「国民健康・栄養調査」によると、日本人の1日あたりの食塩摂取量の平均は9.8g(男性10.7g、女性9.1g)であり、ここ10年ほど大きな変化は見られていません(注4)。
一方、「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、食塩の摂取目標量を男性7.5g未満、女性6.5g未満としています(注5)。摂取量が多いと高血圧のリスクが高まるため、日常的に減塩を心がけることが推奨されています。
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2-2. 塩分補給が必要な場面と判断のポイント
一般的に「夏は塩分をとるべき」と言われることもありますが、これはあくまで大量に汗をかくような状況を想定したものです。たとえば、高温多湿の環境で30分以上の作業や運動をすると、汗とともに水分だけでなくナトリウムなどの電解質(カリウム、カルシウム、マグネシウムなど)も失われます。このような場合、水分だけを補給すると電解質が不足し、熱中症の原因となるおそれがあります。
ただし、日常生活で軽く汗ばむ程度であれば、通常の食事で必要な塩分は十分まかなえています。高血圧の方が安易に塩分を補給すると、血圧に影響を及ぼす可能性があります。発汗の程度や体調に応じて、塩分濃度0.1~0.2%程度のスポーツ飲料等(注3)を活用するかどうか、慎重に判断しましょう。
なお、経口補水液は熱中症対策に効果的とされていますが、日常的に飲むものではなく、脱水症状や大量の発汗があった際の水分・電解質補給を目的としています(注6)。
※汗の量や運動・作業の時間には個人差があり、明確な基準はありません。自分の体調や環境に合わせて塩分や水分の補給方法を判断することが大切です。
※スポーツ飲料の中には糖分を多く含むもの(500mlあたり30g以上)もあるため、過剰な摂取による糖分のとりすぎに注意しましょう(注3)。
※電解質:体内で電気を帯びて働く成分。水分バランスの調整や筋肉・神経の働きに関与します(注6)。
2-3.医師との相談も忘れずに
高血圧で治療中の方は、水分や塩分のとり方について、あらかじめ主治医に相談しておくと安心です。自己判断で塩分をとりすぎると、かえって体調をくずすおそれもあります。
経口補水液の活用や水分補給のタイミングも含めて、医師や管理栄養士と相談しながら、自分に合った熱中症対策を見つけましょう。
2-4.周囲の人も正しい知識を
家族や介護を担う方は、高血圧の方がなぜ塩分を控えているのか、また減塩でもできる熱中症対策について理解しておくと安心です。「暑いから」「汗をかいたから」といった理由で、塩分の多い食品や飲料をすすめないよう、身近な人と情報を共有しておくことも大切です。
3. 高血圧の方が取り入れたい熱中症対策のポイント

塩分のとり方に注意が必要な高血圧の方にとって、夏を健やかに乗り切るには、水分補給・食事・生活環境など、さまざまな視点からの対策が欠かせません。家族や周囲の理解とともに、無理なく実践できる工夫を確認しておきましょう。
<水分補給・食事の工夫>
●適切な水分補給を心がける
喉が渇いていなくても、こまめに水や麦茶などをとることが基本です。1回につきコップ1杯(200mL程度)を目安に、時間をあけすぎずに少しずつ補給しましょう。汗をかいた後や起床時は、意識的な水分補給が大切です。
●塩分以外のミネラルを意識する
汗とともに失われる電解質にはナトリウムのほか、カリウムやマグネシウム、カルシウムなども含まれます。なかでもカリウムは、体内のナトリウム排出を助け、血圧の安定に役立つ栄養素です(注5)。野菜、果物、豆類、海藻類などに多く含まれるため、日々の食事に取り入れてみましょう。
ただし、腎機能に不安がある場合は、カリウムが体にたまりやすくなることがあるため、医師や管理栄養士にご相談ください。
●食事の工夫でおいしく減塩
暑さで食欲が落ちると、味の濃いものに偏りがちです。しかし、工夫次第で、塩分を控えながらも満足感のある食事は可能です。
・だしのうま味を活かす:いりこ、干ししいたけ、かつお節などの天然だしで、塩分控えめでも風味豊かに。
・薬味や酸味で味に変化を:ミョウガ、シソ、生姜、酢、レモン、スパイスなどを加えることで、塩分が少なくても満足感を高められます。
・汁物はほどほどに:みそ汁や麺類のスープは飲み干さず、具材中心に楽しみましょう。
・夏野菜を上手に活用:トマトやきゅうりなどの夏野菜は、みずみずしく食べやすいだけでなく、カリウムや水分の補給源としても役立ちます。暑い時季に取り入れやすい食材として、日々の食事に取り入れてみましょう。
■詳しくはこちらも参考に
減塩習慣を始めよう!塩分を控える理由と減塩のコツ
<日常生活の工夫で暑さを避ける>
・暑さを避ける
屋外では直射日光を避け、なるべく風通しのよい場所で過ごすようにしましょう。外出時は日陰を選び、帽子をかぶる、日傘を使うなどして、こまめに休憩をとりながら行動することが大切です。
・身体を冷やして負担を減らす
通気性の良い服を着て、室内ではエアコンや扇風機を活用しましょう。保冷剤や冷感タオル、冷却シートなどを使い、首・わきの下・足の付け根などを冷やすことで、効率よく体温を下げることができます。
4. 熱中症も減塩も!日常に取り入れやすいおすすめメニュー

忙しい日々でも手軽に取り入れられる、低塩・ミネラルを補給できるメニューをご紹介します。これらのメニューは火を使わずに作れるので、暑さの厳しい日でも気軽に用意できます。
4-1 レシピ名:「冷やしトマトの薬味のせ」
トマトに香味野菜を添え、少量の塩で味を引き立てる、さっぱりとした一品です。塩分は控えめながら、シソやミョウガの風味で満足感のある味わいに仕上がります。
<作り方>
①トマトを冷やしておき、くし形または輪切りにします。
②シソとミョウガを洗い、細かく刻みます。
③器にトマトを並べ、上から薬味をのせます。
④塩をひとつまみふりかけ、酢を少量まわしかけます。
⑤好みでオリーブオイルまたはごま油をほんの少し加えても風味が引き立ちます。
※調味料は控えめにして、素材の味わいを大切にしてください。
4-2 レシピ名:「フルーツヨーグルト」
果物の自然な甘みと酸味を活かした、さっぱりとしたデザートです。カリウムやビタミンが摂れ、無糖ヨーグルトを使うことで糖分を抑えられます。
<作り方>
①お好みの果物(例:キウイ、バナナ、いちごなど)を一口大にカットします。
②無糖ヨーグルトを器に入れます。
③カットした果物をヨーグルトにのせ、軽く混ぜ合わせます。
④必要に応じてレモン汁を少量加えると、酸味が引き立ちます。
※甘みや油分は控えめに、果物とヨーグルトの風味をお楽しみください。
5. まとめ
高血圧の方は、塩分を控えつつも水分やミネラルをこまめに補給し、冷房や日陰を活用して暑さを避けることが大切です。味つけや食材の工夫で減塩生活を無理なく続けましょう。体調に変化があれば早めに医療機関に相談を。周囲も正しい知識を持って支えることが安心につながります。