正月を健康に!減塩も意識しながら、糖尿病・腎臓病の方も楽しめるおせちの工夫

1. おせち料理とは?~健康と長寿を願う伝統料理

お正月に欠かせないおせち料理には、実は「節(せつ)」という言葉に由来があります。
「節」とは、季節の変わり目や年中行事のことを指し、古くは一年の中で特に大切な時期に神様へ感謝を伝えるための料理を「節の料理」、つまり「おせち」と呼びました。
江戸時代には、人日(1月7日)、上巳(3月3日)、端午(5月5日)、七夕(7月7日)、重陽(9月9日)の「五節句」が定められましたが、現代ではその中でも最も重要な節である「正月」に食べる料理をおせちと呼ぶようになりました。
もともとは身近な食材を調理したものをカミにお供えし、その後に家族で分かち合う「直会(なおらい)」の儀礼として行われていたものが、時を経て豪華な重箱料理として定着しました。地域や家庭によって詰める料理はさまざまですが、それぞれに健康や長寿、豊作などの願いが込められています。
ここでは一例として、三段の重に分けた場合をご紹介します(注1)。
●一の重:祝い肴・口取りなど
●二の重:酢の物・焼き物など
●三の重:煮物など
2. 糖尿病・腎臓病の方が知っておきたい「おせち」の特徴

おせちは、保存性を高めるため、砂糖や塩を多く使うのが特徴です。そのため、糖尿病や腎臓病の方は、味付けや食材の選び方、量に注意して食べることが大切です(注2,3)。
注意したいポイント
●甘味が強い:砂糖やみりんを多く使うため、糖質が高くなりやすい
●塩分が多い:塩や醤油を使う料理が多く、塩分摂取量が増えやすい
●リン・カリウムが多い:魚卵や肉類、黒豆、根菜、昆布などは腎臓病の方は控えめに
おせちを食べる際は、主治医や栄養士に相談し、量や種類を調整すると安心です。
2-1. 主なおせち食材・料理の栄養価(参考)
ここでは、文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」に基づき、おせちで使われる主な食材や料理の栄養価の目安をご紹介します。
成分は食品や料理の種類・調理法によって変わるため、あくまで参考値です。糖尿病や腎臓病の方は、必ず主治医や栄養士と相談しながら量を調整してください(注4)。
| 量 | エネルギー(kcal) | たんぱく質(g) | 糖質(g) | カリウム(㎎) | リン(mg) | 食塩相当量(g) | |
| 甘露煮(日本ぐり) | 20g | 46 | 0.4 | 16.3 | 15 | 5 | 0 |
| 田作り(かたくちいわし) | 5匹(10g) | 30 | 6.7 | 1.4 | 160 | 230 | 0.2 |
| 数の子(塩蔵・水戻し) | 1本(20g) | 16 | 3.0 | 0.1※ | 0.4 | 19 | 0.2 |
| 黒大豆(茹で) | 10粒程度(20g) | 31 | 2.9 | 0.3※ | 96 | 44 | 0 |
| だて巻き(水産練り製品) | 1切(30g) | 57 | 4.4 | 5.6 | 33 | 36 | 0.3 |
| かまぼこ(蒸し・水産練り製品) | 2切(30g) | 28 | 3.6 | 3.3 | 33 | 18 | 0.8 |
【参考】文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」
※糖質は、差引き法による利用可能炭水化物を記載しています。
3. 糖尿病・腎臓病でも楽しめる!減塩も意識したおせちの工夫

3-1. 食べる量とタイミングを意識
おせちは種類が多く、つい手が伸びてしまいがちです。小皿に少しずつ盛りつけると食べすぎを防げます。また、食事の時間を決めて食べ、間食のように少しずつつまむのは控えましょう。
3-2. ゆっくり味わう
ひと口ずつよく噛むことで満腹感が得られ、食べすぎを防げます。噛むほどに素材のうま味が感じられ、薄味でもおいしくいただけます。
3-3. 素材の味を生かす
かずのこやかまぼこ、昆布巻などの加工品は塩分が多めです。醤油や塩を足さず、そのままの味を楽しむと、体に配慮しながら味わえます。
3-4. 調理の工夫でおいしく
砂糖や塩を控えめにし、だしや香味野菜の風味を生かすと、自然なうま味が引き立ちます。
さらに、下茹でや水にさらすなどの下処理を加えることで、カリウムや塩分を減らしつつ、素材の色や香りも楽しめます。
こうしたひと手間で、薄味でも満足感のある一品に仕上がります。
3-5. 盛りつけで工夫
彩りや器でも工夫しましょう。小さめの器や重箱を使うと、自然と食べる量が控えめになります。紅白や緑などの色を意識して盛りつけると、少量でも華やかに見えます。
3-6. 体調を気づかいながら
お正月は食べる機会が増える時期です。体重や血糖値を確認しながら楽しみましょう。必要に応じて、糖質や塩分を調整した市販のおせちを取り入れるのもおすすめです。
3-7. 塩分を控える工夫を確認
これまでご紹介した「よく噛む」「素材の味を生かす」「調味の工夫」は、日常に取り入れやすい減塩の基本です。
お正月のおせちだけでなく、普段の食事でも意識することで、塩分を控えながら食事を楽しめます。
さらに詳しい減塩の工夫や具体例は、こちらの記事をご覧ください。
■関連記事:
減塩習慣を始めよう!塩分を控える理由と減塩のコツ
4. おせち料理の具材と込められた願い、食べ方の工夫
ここでは、一の重~三の重の主な具材と、それぞれに込められた意味、さらに糖尿病や腎臓病の方も工夫して食べられるポイントをご紹介します(注1)。

4-1. 一の重(祝い肴・口取り)
●栗きんとん
漢字で書くと「金団」。黄色を黄金に、栗を小判に見立て、「今年も豊かな一年でありますように」との願いが込められています。
工夫:甘露煮のシロップは加えず、必要に応じて低カロリー甘味料で甘みを調整します。栗はカリウムを多く含むため、一度に食べすぎないように。
●田作り
昔は乾燥させた小魚を田んぼの肥料にしていたことからこの名がつきました。豊作を祈る意味を持ち、別名「ごまめ」とも呼ばれます。
工夫:醤油は最後に少量だけ和えて塩分を控えめに。小魚はカリウムやリンが多いため、量に注意。
●かずのこ
ニシンの卵。ニシンは「卵が多い=子がたくさん生まれる」とされ、子孫繁栄や子宝を願う縁起物です。
工夫:塩抜きを行い、漬け汁はだし汁と薄口醤油でシンプルに。彩りとして少量加えると華やかさが増します。
●黒豆
「まめに暮らす」という意味から健康を祈る料理です。黒色には邪気を払う力があるとされます。
工夫:甘さを控えめにじっくり煮て香りやほくほく感を楽しみます。カリウムやリンが多いため、茹でこぼしで調整し、量も控えめにすると安心です。
●たたきごぼう
根が深く張ることから、「家庭や家業が地に根を張って安定するように」との意味があります。
工夫:少量ずつよく噛むことで満腹感が得られ、血糖値の急上昇を抑えやすくなります。
●伊達巻
巻物の形から学問や文化の繁栄を象徴します。
工夫:砂糖を控えめにし、出汁の風味を生かすと甘さを抑えつつ美味しく味わえます。
●かまぼこ
半円形は日の出を表し、紅は「めでたさ」や「魔除け」、白は神聖な色とされています。
工夫:塩分が高めなので、追加の醤油は不要。素材の味を楽しみましょう。
4-2. 二の重(酢の物・焼き物など)
●えび
「腰が曲がるまで長生きできるように」という長寿の象徴。赤色は魔除けの意味もあります。
工夫:食べる量を調整し、甘みや旨味を生かして煮ると満足感が得られます。
●なます
大根とにんじんの紅白が祝いの水引を表しています。
工夫:凍らせて脱水すると塩分を減らせます。ゆずの皮で香りを加えると薄味でも楽しめます。
●ぶり
出世魚で、出世や成功を願う縁起物です。
工夫:脂の多い部分は少なくするとカロリーや脂質を抑えられます。大根おろしを添えると、さっぱり味わえます。
4-3. 三の重(煮物など)
●昆布巻
「よろこぶ」に通じ、幸福や喜びを祈る縁起物です。
工夫:カリウムが多いため茹でこぼし、塩分は表面に軽くからめる程度に。
●れんこん
穴が空いていることから「先が見通せる」ことを象徴します。
工夫:下茹ででカリウムをある程度減らし、食べやすくします。ゆっくりよく噛むことで満腹感も得られます。
●筑前煮(煮しめ)
根菜や山の幸を使い、豊かな収穫や家庭の安定を祈る料理です。彩りも豊かで正月料理に華を添えます。
工夫:下茹でしてカリウムを減らすと食べやすく、ゆっくりよく噛むことで満腹感も得られます。
どの料理も甘味や塩分が強い場合は、少量ずつ食べ、他の料理と組み合わせると健康に配慮しながら楽しめます。
5. 健康に配慮したおせちで新年を迎えよう
おせちは、家族の健康や幸せを願う意味が込められた伝統料理です。糖尿病や腎臓病の方がおせちを楽しむ場合も、量や食べ方、調理の工夫を取り入れることで、体への負担を抑えながら味わえます。たとえば、塩分や甘味を控えめにしたり、少しずつ味わって食べることで、血糖値や腎機能への影響を和らげることができます。また、彩りや食感を工夫すると、少量でも見た目や味わいをしっかり楽しめます。
体調や数値に合わせて無理なく調整しながら、減塩を意識したおせちも含め、安心して新しい年を迎える工夫として取り入れてみましょう。



